メタップスの新サービス、「タイムバンク(Timebank)」はマリー・アントワネットの再来を予感した

9月11日,メタップスが個人の時間を売り買いできるマーケット「タイムバンク(Timebank)」のiPhoneアプリをリリースしました。

www.metaps.com
そして、このプレスリリースにも書いてあるように、このサービスの目指すところは「評価経済」,「なめらかな社会」,「新たなる中世」,「個人が主役の経済」と言葉で表されるポスト資本主義を実現するかのような位置づけを持って公開されたサービスであり、私自身とても楽しみにしておりました。
 

このポスト資本主義を代表するかのようなサービスの先駆けとしては、ビットコインを用いたマイクロトレードの「valu」やフレンドファンディング(クラウドファンディング)の「polca」などがここ最近だと話題になっているのかと思います。

 

このポスト資本主義にあるのは、価値観の変化。つまりは科学主義、資本主義の既存の価値観では各個人が幸せになれないのではないかという疑惑から、新しい価値観で生きたいという意志があります。

そして、その流れは各個人にとってはもはや「働くこと=社会のためになり、自分の幸福」という方程式は成り立たなくなってきており、「好きなことをする=社会のためになり、自分の幸福」という価値観のほうが強くなっているのではないかと思います。

2008年のリーマン ショック以降、この傾向は顕著になりました。

もはや誰も現存の経済システムを信じられません。 誰も「 働く 理由」や「 働く意味」 を見出せなくなってしまいました。「働く理由」「 働く意味」が失われてしまうと、もう「 とにかく最小労力で最大利益を上げること」が唯一の回答になってしまいます。「科学」に対しての「 科学や合理主義は、私たちを幸せにする」という価値観が崩れたから、科学は信頼を 失っ た。同じように「 経済」も、その内部に「 一生懸命働くことが 、みんなの幸せにつながる」という価値観を含んでいないと、信頼を失ってしまうのです。すなわち、「 労働は私たちを幸福にしてくれない」。

- 岡田斗司夫評価経済

 

「この国には何でもある。だが、希望 だけが ない」 村上龍 の『 希望の国エクソダス』で主人公がつぶやくこの言葉が、今の日本をよく表している気がする。もはや物欲を満たすことが個人の生き甲斐ではなくなってき ている。

周りの20代の子たちを見ても、名誉やお金に全く興味がない子が明らかに 増えている。 彼らはいわゆる「 さとり世代」と呼ばれていて、その流れは もちろん、若手の起業家界隈にも浸透してきている。「 起業」と聞くと、 少し前だと「 有名になりたい」「 億万長者になりたい」「 影響力を持ちたい」「 権力を持ちたい」といった若干ギラついたイメージがあったけど、今の若い起業家はお金儲けのことより「 社会のために何ができるのか」と純粋に考える子が増えている。

- 家入一真 「なめらかなお金がめぐる社会。あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ」

 

そういったポスト資本主義への新たなる価値観が芽生えている中で、
valuやpolcaはその価値観を育てていく形で存在していると思っています。

valuは、株取引のようにビットコインを用いてトレードすることでユーザーの価値を評価しています。たしかにこれだけだと、胡散臭を感じる人が居てもおかしくないとは思います。
ただ、valuで上場したユーザーはネット上のオープンな世界で信用を得て活動をすることを前提としているため、利己主義な性善説が成り立っています。

そのため、売り逃げなどによる一時的な貨幣価値を得ることよりも、信用を継続して持ち続けるほうが重要であると。
以前話題になったヒカル氏による事件がそのことを裏付けているように。

こういった前提があるがために、valuで上場するようなユーザーは支援・応援を求め、valuを買う人はその人を支援・応援することによりお互いにwin-winの関係になる。
(もちろん投機目的な人もいるが、今の所サービスとしてこの主目的から外れているようには見受けられない)

 

polcaも同様に、クラウドファンディングという性質上実態は前売り購入のようになっているが、polcaの場合300円で支援したリターンが300円を下回るケースもわりと多い。

下回るという言い方をすると悪く聞こえるかもしれないが、それだけ支援という感情的価値が大きいということである。

 

このようにvaluもpolcaも好きなことを応援してもらうことで、自分の幸福・社会への価値づくりをしている。
また、この支援・応援の弱いつながりもの創出も特徴的だ。仮に、貨幣価値がお互いに損も得しなくても(300円を支援して、300円が返ってくるような)弱いつながりという価値が作れたという考え方もあるだろう。

 

このように現状では、valuもpolcaも個人が自身の好きなことをやるために支援を募り、それを応援するためのサービスという側面が強く感じられ、まさに「個人が主役の経済」を成り立たせようとする意志を感じられる。

そしては、私はこのようにポスト資本主義を代表するようなサービスが大好きである。

だからこそ、私はメタップスの「タイムバンク(Timebank)」にはかなりの期待をしていました。


タイムバンクのミッション
 
 タイムバンクは様々な空き時間を有効活用できる「時間市場」の創出を通して、個人が主役の新たな経済システムの実現を目指しています。時間の価値を再認識してもらうことで、人々の働き方や生き方を変えていきたいと考えています。

https://timebank.jp/

 

私はこのタイムバンクのミッションを読んだ時に、私の主観的な妄想として、個人が空き時間を利用として新たなる知識や人にへの出会いがとても身近になるのではないかと思って居ました。

まるで、旅行に行ったらホテルで泊まるというドグマが安価なAirbnbを使うっていう手があるじゃないか!、という変化が起きるような。

だから、私はこのサービスが出た時に今まで敷居が高かったけど、著作権とかについて気軽に弁護士さんに相談できるのではないかとか、自分の好きなこと(趣味や事業)に対しての協力者が見つけられる新たな可能性が開けるのではないかと期待していました。
そう、それはまさに、専門的な立ち位置にいる人がこれから好きなことをしようとする人に対しての支援を空き時間を使って行うような。対価として時間を貨幣価値に紐づけることでお互いにwin-winの関係にするような。

というような、勝手な期待を抱いたまま、私は今回リリースされたタイムバンクに触れてみました。

結論から言うと、とてつもない違和感を感じた。

それはまさに「マリー・アントワネットの再来を予感するような。

 

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その原因は、


1.投機目的の側面が強い


9/12時点で、タイムバンクのはあちゅう氏の秒単価は¥55.6/秒。

1分で3,336円。1時間で、200,160円。

はあちゅう氏の影響力・実績で考えると確かに妥当だと思いますし、もしかしたら安い方なのかもしれない。(この見方はポスト資本主義というよりは、The資本主義ですけど)

ただこれが一般消費者が購入者だと考えると、やっぱり値段の高さを感じれずにいられない。

 

そして、タイムバンクは時間を買ったらその人の時間を使うシステムではなく、時間の権利を買って売り買いできるということ。
これはvaluビットコインとの紐付けが時間になっただけにも思えるが、一つだけ違う。
個人の感覚としてビットコインは無限にあるものから作られるように思えるが、時間は明らかに有限であること。

さらにいうなら,valuは対価が必ずしもついておらず実態のない権利で、時間の権利は無論時間という対価が必ずついてくる。


そうなってくると、人は有限なものに対して価値を高めることに執着してしまう。

タイムバンクは空き時間をシェアするシステムではなく、時間の権利を高めるシステムという側面が明らかに強すぎるのだ。

 

このことがvaluと同じように株取引のようなトレードの概念を取り入れているとはいえ、ポスト資本主義の考えから個人の支援を行うvaluやpolcaと違ってくる。
valuはその人が信用されていくことの副次的に価値が上がるのに対して(確定的な対価がないので信用が大事に)、タイムバンクは自分の時間そのものを単純に貨幣価値として高めていることだけがメインとなっているように感じられる(確定的な対価があるから信用の重要さが低くなる)。


確かに、鶏か卵かというような話ではあるが、valuとタイムバンクではその順序が明らかに違っていると思っている。

 

2.SNS影響力と価値の紐付けが強力

タイムバンクでは、時間の発行者となるにはSNSでの影響力のスコアを測る必要があります。
そしてまた、初期の時間の権利の価値はその影響力や専門性から算出されるようです。

9/12時点では、全ての時間の購入が受付前なので初期の価値になっているのだと思います。

一番高い経沢香保子氏は¥72.3/秒。

一番低い坪田信貫氏は¥22.3/秒。

 

トレードの方式は、株取引を酷似しているためどうしても初期の価値の基準に引っ張られやすいだろう。
また、影響力によって対価のあるものを購入者を募るという点からもSNSでの影響力が直接的に関連するだろう。(対価があるかないかで、valuとは違う)

 

時間の発行者(販売者)の事前募集を開始
 
 時間を発行する「専門家」は自分のもっとも得意な領域で使える時間を販売することで、隙間時間から収益を得ることができるようになります。タイムバンクではオンライン上の影響力をスコア化して、一定のスコア以上の方を対象に時間の発行(販売)を申請できる仕組みを採用しています。
 FacebookTwitterYouTubeInstagramは現在準備中)でアカウント連携をすると、システムが自動的にオンライン上の影響力を計算してスコアを算出します。影響力スコアが一定以上の場合は申請が可能になります。その後、プロフィールや時間の用途などを入力し申請いただくと、運営スタッフが審査に入らせて頂きます。
 審査と初期の時間価値の決定に関しては、①影響力、②信頼性、③専門性の3点を軸に運営スタッフとその業界の外部アドバイザーなどによる審査で決定し、時間発行後は売買で形成される市場価格になります。

http://www.metaps.com/press/ja/368-2017-07-18-01-52-46

3.BtoCに見せかけたのCtoC

これが一番の格差を作る原因だと思います。
タイムバンクはCtoCに見えてBtoC的であり、BtoCのようであるけど決してBtoCにはなりきれないので、一般消費者同士での格差が表面的に見えてしまうのだと思います。

どういうことかというと、

タイムバンクは誰もが時間の発行者や購入者になれる可能性があるという意味ではCtoCです。


まず時間発行者へなる入り口の難易度。
影響力のスコアが偏差値57以上で申請ができ審査されるようですが、ここで約75%の人が使えなくなってしまいます。そして審査の合格率がわからないのでなんとも言えないのですが、合格率が50%だとすると発行者になれる人は12.5%の限られた人になるということになります。これがBtoC的なところです。

時間の権利の売買が主目的になりやすいという観点から見ても、価値が上昇する条件として影響力が必要なので全ての人が発行者になるというのは現実的ではなさそうなところもまたBtoC的です。

じゃあBtoCっぽいのだからといって、一般消費者とBtoCのBっぽい特別な人(時間発行者)を格差を比べる基準はないんじゃないか?と。
確かに、上場企業の株価と自分の収入を比べる基準などないし、valuで価値の高い人と自分を比べてもそれはそれって感じですよね。

 

でも、タイムバンクはどうしても一般消費者がBtoCのBっぽい特別な人の価値を比べてしまう原因があります。
それが時間です。

こればかりは、すべての人が平等だと思わずにいられない基準なのです。

そしてタイムバンクでは平等ではない。
明日死ぬ人とあと50年生きる人の今日の価値が違うと言われるかのように、
SNSの影響力の違う人では時間の価値が違うと言われてしまう。


タイムバンクでは時間が円という貨幣に交換することが前提であるので、どれだけ特別な人であろうと時給に変換できてしまう。
その時給というものは全ての人が算出できる単位なので、どうしても比べてします。
これがBtoCになりきれない点です。

そして、サラリーマンの平均年収を524万円とすると残業等を考えずに計算すると時給2453円となります。(https://mainichi.jp/premier/business/articles/20161027/biz/00m/010/022000c)

これを秒に直すと、¥0.68/秒。¥72.3/秒や¥22.3/秒と比べるとどうしても見劣りしますよね。

時給960円のアルバイトだと、¥0.267/秒です。もはや100倍違います。


たしかにタイムバンクは投機目的が強く、影響力・専門性が強い人がやっているので、仕事との時給と比べると差がでるのは仕方ないでしょう。


ただこのサービスがみんなに使われるような大きなサービスになったときには、時間権利の購入者のほとんどが時間発行者ではない人(仕事の時給と比べるしかない人)ばかりになる可能性もあります。


そこが一般消費者同士で格差が出てしまってるように見える、もしくは実際に出るサービスになりとてもポスト資本主義のサービスとは一線を画す気がします。

 

1.投機目的の側面が強い

->稼ぐことがメインとなる

2.SNS影響力と価値の紐付けが強力

->影響力の差から、資本の格差が出る

3.BtoCに見せかけたのCtoC

->その格差は企業と個人ではなく、個人と個人という視点で生まれる

 

以上の3点からタイムバンクは、

個人間で格差を広げるサービスになっているのではないかという危惧があり、それが違和感の正体である。

 

それは評価経済の光と影、メリットとデメリットというところの、
影でありデメリットを強く社会にもたらすのではないかと思います。

 

タイムバンクの発行者は基本的にインフルエンサーと呼ばれるネット上で影響力の強い人と仮定していいと思います。
そして、タイムバンクはシステムの性質上どうしても主目的が信頼への活動ではなく、時間の貨幣価値の上昇、投機目的になってしまいます。

 

そのため、タイムバンク上のインフルエンサーはお互いに貨幣価値の上昇に躍起になるでしょう。
それはまさに、価値をあげるためだけにお互いを評価しあう社会です。

 

netflixで「Black Mirror」というIT技術をブラックコメディにした番組があります。
そのシリーズ3の1話「ランク社会」という話がそれに近いです。
このランク社会では、インスタグラムのように流れる情報を星1~5でランク付けして、ユーザーをその平均値として1.0~5.0でランクづけされます。
ランクの高い人は、良いマンションを借りれたりと社会的優遇を受けます。
ランクの低い人は、飛行機にも乗れず、レンタカーもまともに借りれません。信用力がないと思われていますから。
そのため、ランクの高い人はランクの低い人と一緒にいることでランクを下げる訳にはいかないので、むしろよりランクの高い人と一緒にいてランクを上げたいのでそういう人に媚を売ります。
タイムバンクの個人の時間を貨幣価値に変換するシステムは、そんなお互いを評価しあう社会に近づけている気がします。

そして、もう一点。
タイムバンクの登場人物は発行者である、インフルエンサーだけではないことです。

そう、発行者になりきれない一般消費者です。

 

「ランク社会」でいうランクが高いインフルエンサーに、夢を抱き、近づくためにも時間を購入する一般消費者。
インフルエンサー達は購入者が一般消費者なので、結託して時間の価値をあげるでしょう。
そして、「ランク社会」で考えるとランクが高いインフルエンサーはランクの低い一般消費者を支援するでしょうか。
きっとそこにあるのは、最終的には夢を売るという搾取でしょう。



タイムバンクは華やかな評価指数を消費者に見せつけ、夢を売るかのように搾取する。

私はここで、フランスのブルボン朝時代、アンシャン=レジームを思い浮かべました。
第一身分の裕福な人たちはふわふわしたフリルと体をカチッと固定したコルセットで華やかさに過ごし、身分の低いものからは搾取します。

第三身分の貧困に喘ぐ人たちは、社会に対して全く力はありません。

 

もしインフルエンサーが時間の価値をあげることに執着するようなシステムになってしまっていて、それが社会に蔓延してしまえば、このような格差社会が生まれてしまう可能性を否定できるでしょうか。

 

時間の価値の高額化、ランク社会での勝ち組、アンシャン=レジームの第一身分、
インフルエンサーマリー・アントワネットになってします社会を恐れています。

このことから、私はタイムバンクのシステムをどうしても危惧してしまいます。
そして、この違和感が間違いであることを心より願っています。

 

ただメタップスのタイムバンクはリリースされたばかりで、まさにこれからのサービスなのでこれからどうなって変化していくのかは分かりません。

影響力の強い人が一強とならないための策を講じようとする施策もあるようです。

初期は専門家が一度に売り出せる時間は1000万円未満となるように制限を設けて、影響力の強い専門家側が一方的に有利になることが無いように配慮した運営を行っていきます。
 また、専門家とユーザーのお金のやりとりに関しては全て当社が決済の仲介に入り、安全な取引をサポートします。自社の決済事業を通して毎年1000億円以上の決済処理を行ってきた基盤と、上場企業としての健全な財務体質および四半期毎の業績開示による透明性の確保により、専門家及びユーザーの方々が安心して利用いただける運営体制の構築に努めてまいります

http://www.metaps.com/press/ja/382-iphone

 

私個人としては時間をシェアするという概念をポスト資本主義的であり、もともと大変期待していたサービスではあったので、このサービスが日本の人々全体を幸福にするサービスとして成長してくれるのが一番の願いです。

 

そして、私の考えに共感してくれる人がいるならば、タイムバンクを共に厳しくも暖かく見守ってより良いサービスに促しましょう。